「ジャンクロール!」作 揚村 甜記(鏡読み)

 

――――――――――――――――――――――――――

 

登場人物

木凪 芳也(きなぎ よしや) ……主人公その1、高校生

枯井 灯子(かれい とうこ) ……主人公その2、高校生

 

浅辺 小梅(あさべ こうめ) ……警察、ホームレス退去係

吉崎 中敏(よしざき なかとし)……警察、ホームレス退去係、浅辺の後輩

 

藤井 フジオ(ふじい ふじお)……ホームレスのおっちゃん

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「ジャンクロール!」

 

 

舞台は暗がり。

そんな中、軽快なBGMが流れてくる。

ラジオ放送「ジャンクロール!」が始まる。

 

 

枯井 ども、こんにちわ、聞いてる人も聞いてない人もそれでいてみんなありがとう!

木凪 「ジャンクロール!」今日もきっかり一時間、楽しい話で盛り上がってこう!

枯井 パーソナリティはこの私「イコ」と

木凪 「ナギヨシ」でお送りいたしましたー。

枯井 まだ、終わってないよ!

木凪 おー、そうだった、そうだった。それで今日のお手紙は?

枯井 はい、これ。

木凪 おお、こいつは凄い、なーんもきてない。

枯井 あははは、それじゃいつものように好き勝手流してこう!

木凪 おう!

 

 

ややあってBGMが変わる。

 

 

舞台に明かり。

ゴミだらけ、ガラクタだらけ、どこか手作りな感じの部屋。

この部屋で片付いてるのは無線放送用の機材とミキサー卓、

それに反対側にあるバッテリーがつながったママチャリの区域のみ。

そこでまだ三十代ほどの男が一人茶を飲んでいる。

男の身なりはかなり汚れた感じで、どこかホームレスな感じが漂っている。

藤井フジオだ。

 

 

藤井 ふぅ……さてと。

 

 

呟きながらも藤井はお茶をおき、ミキサー卓の近くへ。

そしてCDを取り出す。

同時にBGMが切れる。

 

 

藤井 そろそろ来るかな……。もうちょっと茶でもすすってるか。

 

 

突然扉が開き人が入ってくる。

枯井と木凪だ。

木凪の手には雑誌やら漫画やらが入った袋がある。

 

 

枯井 ちーっす、フジオさん

木凪 おーっす

藤井 おっす、嬢ちゃん、それに青年

木凪 いいかげんに名前覚えてくれよ、俺は木凪芳也、こいつは枯井灯子

藤井 フェフェフェ。

木凪 また、そうやって誤魔化そうとする。ああ、これ頼まれてた、いらない雑誌。

藤井 ありがとうよぉ、これで少しは贅沢がてきるの

木凪 んなもんなの?

藤井 アンパンに食パンにカレーパンが買えるというのはその日暮しの人間にはぜいたくものなのじゃよ。

木凪 ふーん、そうなんだ

藤井 そうなんじゃよ、それで今日も放送するのかな?

枯井 モチのロン! せっかく作った無線機器、これを使わずして何を使う。

藤井 若いのう、ええことや。――――さてっと、おっさんはとっととごみ拾いに行ってくるよ

木凪 んじゃ、留守番ありがとうね、フジオさん

藤井 気にせんでええよーそれじゃのー

 

 

藤井が出て行く。

 

 

枯井 よっしと、それじゃ早速充電開始。走れヨッシー!

木凪 おう! って俺はどこの恐竜だ、どこのUMAだ

枯井 いいじゃん、ペダル重くて私じゃ動かせないんだからそれ。

木凪 まあな、というか、お前でもいけるんじゃないか、あの怪力があれば

枯井 誰が怪力だー

木凪 冗談冗談

枯井 ……まったく。ほら、チャッチャとこぐ。

木凪 はいよ。あー灯子、アンテナのチェックやっとけよ。

枯井 はいはい。

 

 

木凪がママチャリをこぎだす。

枯井は外に出て、ボロボロのアンテナをチェックする。

ある程度こぐと部屋の明かりが強くなる。

 

 

木凪 灯子、こっちはオッケーだぞ

枯井 こっちも……、うん、大丈夫。

木凪 それじゃ、はじめっか

枯井 おう

 

 

二人がミキサー卓を合わせ、CDを入れる。

流れ出すBGM

マイクの前に座る二人、そしてスイッチをいれ、ラジオ番組ジャンクロールが始まる

 

 

枯井 ども、こんにちわ、聞いてる人も聞いてない人もそれでいてみんなありがとう!

木凪 「ジャンクロール!」今日もきっかり一時間、楽しい話で盛り上がってこう!

枯井 パーソナリティはこの私「イコ」と

木凪 「ナギヨシ」でお送りいたします。

枯井 お、今日は普通に来たか

木凪 たまにはちゃんとまじめにやらんとね

枯井 それがいつもならいいのにねぇ

木凪 気にしない、気にしない、これがフジオ大明神のお言葉さ

枯井 新たな神様勝手に生みだなさない!

木凪 はいはい、それで今日のお便りは?

 

 

枯井、箱を取り出す

 

 

枯井 はい

木凪 あー、これはすごい、やっぱり空だ

枯井 あははは、それじゃ、今日も適当にやってこう

木凪 だな、それじゃ本日一曲目は――――。

 

 

枯井が音楽替えにいく。

BGMが替わる。

 

フェードアウト

 

 

二人 それじゃあ、また明日!

 

 

舞台に明かり。

日が暮れたのとバッテリーがなくなっているせいで明かりはさほど明るくはない。

 

 

枯井 お疲れー

木凪 お疲れさん

 

 

そういいながら、ミキサーや、CDを片付けていく。

 

 

枯井 いやぁ、今日も楽しかったね

木凪 だな。まあ、乱入放送って言うか、マイナーな回線使ってるから、聞いてくれる人がいるかどうかわかんないのがちょっと傷だけどな

枯井 なに言ってんの、それがいいんじゃない

木凪 手紙は来ないけどな

枯井 グサッ、今の言葉は効いたわ、時速60キロの電車に体当たりしたぐらいには効いたわよ

木凪 即死じゃねぇか、というか擬音おかしくないか?

枯井 くっ、ツッコミがいつになくしびやね

木凪 ラジオ番組やってるときはなぜか俺がボケてるからな、その反動じゃねぇ?

枯井 うーん、なんか立場が逆転するんだよねぇ

木凪 だよなぁ。ま、いいんじゃね、それはそれで面白いんだし

枯井 ふふふふっ。そうして芳也はボケの道も、ツッコミの道も究めた一人漫才マスターになるのでした。

木凪 なぜ!?

枯井 期待してるよ、マスター

木凪 お前に言われると、喫茶店のマスターみたいに聞こえてくるからいやだ

枯井 違う違う、カクテルバーマスター

木凪 あのな、お前未成年だろ

 

 

そこに藤井が帰ってくる。

手にはビニール袋、中には飲み物と酒がいくつかが入っている。

 

 

藤井 戻ったぞー

枯井 お帰りーフジオさん

木凪 おかえり……って、フジオさん、どうしたんだよそのビニール袋

枯井 貧乏に耐えかねてついにやっちゃったの!?

藤井 フェッフェッフェいやなに、今日は青年が持ってきてくれた雑誌のおかげもあって豊作だったからの

木凪 よかったじゃん、フジオさん。

藤井 ふむ、ありがたやありがたや

枯井 でもさ、ごみなんか拾ってお金になるもんなの?

藤井 ゴミをバカにしちゃいかんよ、アルミ缶は百個集めればちょっとだけお金になるし、落ちてる雑誌だって紙やすりをかけて古本屋に持っていけばちょっとだけお金になる。

枯井 あんま、お金になりそうにもないのね

藤井 ふぅむ、嬢ちゃんはゴミ拾って金儲けでもしようとおもったのかの?

木凪 うわ浅ましい……。

枯井 ち、ちがう。ほらよく言うじゃん、右の頬を殴ぐられたら、左の頬にも注意しろって

木凪 いや、それ使い方から始まって何もかもが間違ってる。

枯井 き、気にしちゃダメだって

木凪 うわー

枯井 な、なに

木凪 いや、なんでも

枯井 ……気になるじゃない

木凪 気にすんな

藤井 さて、漫才も一段落したところで――

二人 誰が漫才だ!

藤井 フェフェフェ。仲良きことはなんとやら、とりあえず今日は一杯やらんかの、久しぶりにおごっちゃろう

枯井 え、いいの!

藤井 礼ならそっちの青年にいうんじゃの、おかげで色々買い込めたからの

枯井 ありがとうヨッシー!

木凪 どういたしまして、って、だから俺はどこの恐竜だ!

枯井 気にしない、気にしない、フジオさん、私焼酎魔王ね。

藤井 またコアな銘柄を知っとるの、しかしそこまで高いのは流石に買ってきてないよ

枯井 ちえ。残念

木凪 つうか、お前未成年なのに酒飲んでるの?

枯井 フッ、なんていうの、大人のたしなみって奴?

木凪 おいおい……

藤井 それじゃ嬢ちゃん青年、こっちすわりなさい。

 

 

二人は椅子につく。

 

 

藤井 それで何がええん、とりあえず、お茶に炭酸に、酒ときてるが。

木凪 うーん俺はお茶でいいよ、こいつには鬼殺しでもくれてやって。

枯井 私は鬼かー!

木凪 さっき焼酎魔王を頼んだ奴がなにを言う。

枯井 高級焼酎と鬼殺しをいっしょにしないで欲しいわ。

木凪 ……どっちも酒だろ

藤井 フェッフェッフェ、ほい、青年。

木凪 サンキュ、フジオさん

藤井 それと、ほい嬢ちゃん

枯井 あー、やっぱり鬼殺し……なんだ。

藤井 それとも、炭酸にしとくかの?

枯井 うーん、そうしておくー

 

 

枯井、鬼殺しと炭酸を取り替える。

 

 

枯井 (炭酸を掲げて)それじゃフジオさんのおごりにかんぱーい!

二人 かんぱーい!

 

 

みな、それぞれ飲み物に口をつける。

 

 

枯井 カーッ五臓六腑に染み渡るわー

木凪 おっさんくさっ!

枯井 なーにーよー、いいじゃない。

木凪 とりあえず炭酸でやってるところが子供っぽいぞお前。

枯井 なにをー!

藤井 フェッフェッフェ。いやぁ、仕事上がりのいっぱいの味を知ってるとはお嬢ちゃんも大人じゃの

枯井 フッ、聞いた芳也、私は大人よ

木凪 いや、子ども扱いされてるのに気づけよ。

枯井 ウソ!? フジオさん私を子ども扱いしてないよね

藤井 モチのロンじゃよ。

枯井 どう、芳也恐れ入ったでしょ。

木凪 はぁ・・・・・・。

 

 

木凪もう一杯お茶を飲む。

と、同時に電気が落ちる。

 

 

二人 あ

藤井 おー、電力が落ちたかの

枯井 あー、ほら、ヨッシーこぎなさい

木凪 たくっ・・・・・・だから、俺はどこのUMAだっての

枯井 いいからこぎなさいって

木凪 はいはい

 

 

木凪が自転車をこぎだす

ややあって、明りが戻りる。

 

 

枯井 おつかれさん

藤井 おつかれさんよ、青年

木凪 おう・・・・・・しかしなぁ、そろそろ配線変えたほうがいいんじゃないか?

枯井 うーん、そう?

木凪 まあ、片っ端からジャンクパーツでまかなってるのが問題なんだろうけど、電気の落ちる頻度が高くなってきたし、そろそろ限界じゃないか。

枯井 えー、もう少しいけるよ。

木凪 いや・・・・・もう限界だって。

枯井 まったく、物扱いのなっていないね。 そんなに物を大切にできないと彼女できないよ。

木凪 そこまで深刻な問題なのか!?

枯井 安心して、今ならまだ引き返せる。

木凪 おいおい

 

 

電気がまた落ちる。

 

 

二人 あ

木凪 やっぱり交換しない?

枯井 ……うぅ。

木凪 とりあえず、こいどくわ。

 

 

木凪が自転車をこぎだす

ややあって再び明かりが戻る。

 

木凪 これで分かったろ、ショートでもして小屋が燃えたらそれこそラジオ放送も流せなくなるんだぜ

枯井 クッ……今に見てなさいよ。

木凪 はぁ、となるとまたゴミ漁りかぁ、今度はラジカセ以上のもんが出てきてくれるといいんだが

枯井 前回はラジカセ以上は出てこなかったんだっけ。

木凪 ブラウン管のぶっ壊れたテレビとか、液晶が漏れてた液晶ディスプレイとか、マザーボードが真っ二つになってたパソコンなら出てきたけどなぁ。

枯井 感じ的に使えなさそうね。

木凪 感じもなにも、流石に専門的な修理技術をがなくちゃ無理だっての、そういうのは。

枯井 うーん。

藤井 最近は結構な数のテレビとかパソコンなんかが不法投棄されているからの。

    嬢ちゃんも、探せば動く状態のものを見つけられるかもしれんよ。

    しかし、あのミキサー卓や、マイクまで落ちてるとは流石におもわんかったの

木凪 俺もびっくりしたよ。灯子があんなゴミの山に埋もれていたミキサー卓を掘り出してかついで来たときは

枯井 見つけたのは芳也じゃない。

木凪 ついでで言うと直したのもな

枯井 ぐっ……どうせ私は怪力しかとりえがありませんよだ。

木凪 なに拗ねてんだよ

藤井 青年よ、年頃の嬢ちゃんは複雑なんじゃよ

木凪 なるほど。

枯井 人を複雑怪奇なパソコンみたいに言わないでよ!

木凪 何言ってるんだよ、パソコンはああ見えて結構組み立ては単純だぞ

枯井 突っ込むところはそこか!……って、芳也にパーフェクトツッコミを求めるのはまだ早かったか

木凪 ぱ、パーフェクトツッコミって……

枯井 ま、頑張れ、マスター

木凪 マスターじゃないっての!

藤井 負けちゃいかんよ、青年

木凪 フジオさんも面白がって便乗しないでくれよ!

藤井 フェッフェッフェ、とそろそろじゃないかね。

木凪 (携帯を出して)ん、ああほんとだ7時ぴったり。相変わらずフジオさんの体内時計は正確だな。

藤井 それほどでもないの

枯井 あーあ、もう少し居たかったな

木凪 仕方ないだろ、お前塾だし、俺は俺で用事あるし。

枯井 うーん、そだよね

藤井 そうじゃよ、ここは逃げん、また明日も来るんじゃろ?

枯井 モチのロン!

木凪 ま、話もまとまったみたいだし、それじゃそろそろ家に行くか。フジオさんまた留守番よろしくね

藤井 うむ、屋根があって雨風がしのげるからの、家無しのおっさんには助かるぐらいだよ

木凪 あはは、とにかくそれじゃな。

枯井 じゃねーフジオさん

藤井 道中、気をつけてなー

 

 

木凪と枯井が出て行く。

藤井は二人が出て行くのを確認すると一人ミキサー卓へと移動する

 

 

藤井 MGB-SG124C……ほんと、まさかこのミキサーにもう一度会うとは……。

    それにこの……BECTL社製、スーパー・カーディオイド・ダイナミック型のマイク、まさかこいつも拾ってくるなんてな。

    ……そしてラジオ「ジャンクロール」か。

    まったく、世の中って奴は因果なものだよ。

    フェフェフェ、さてと明日も早いことだし、銭湯行って、寝るとするか。

 

 

フジオさんが出て行く。

 

 

場転。

 

 

木凪の部屋。

木凪がパソコンをいじっている。

 

 

木凪 さてと、今日はなんか面白いことやってないかなっと。

   鈴木タタタが電撃婚約……あー、あいつまだ18だろうに、相手は……うっわー、43っておばさんじゃねぇか。

   芸能人って何考えてんだかわかんねぇな。まったく。

   ほかにはっと……ん?ちょっとマテ、なんだこれ!

   苅田にてホームレスの強制退去、および無断設置物の撤去作業強行……俺のとこの町じゃねぇか!

   なんでこんな急に、立ち退きと取り壊しなんか……。

   とにかくこうしちゃいらんねぇ……(携帯を取り出す)。

   電話はまずいな、授業中かも知んないし、となると、メールか。

 

 

木凪、メールを打ち終わるとあわてる様にして部屋から出て行く。

 

 

場転

 

 

枯井が通っている塾

授業が終わるチャイムが鳴る。

 

 

枯井 ふぅー。やっとこさ終わったよ。

    (携帯の着信音)ん……なんだろ。

    芳也からだ、えっと――――。

    『苅田にてホームレスの立ち退きと無断使用物の強制撤去が始まる。俺達の発信所も壊されるぞ』って……。

    ええ!?ちょ、ちょっとなにこれ!

    あいつに限ってこういうタチの悪い冗談は言わないし……確かめないと!

 

 

携帯をしまい、枯井は走り出す。

 

 

場転

 

 

相変わらずの手作りの部屋。

部屋には藤井の姿はない。

電気がおち薄暗くなった部屋に木凪が走りこんでくる。

 

 

木凪 (肩で息をしながら)よし……まだ無事、いやフジオさんは……?

 

 

そこに枯井も駆け込んでくる。

 

 

枯井 芳也!どういうこと、ちゃんと説明して!

木凪 灯子……、ホームレスの立ち退き作業と無断使用物の撤去が強行されるのはメールで読んだよな。

枯井 じゃなかったら、ここにこないよ。……それでここが壊されるってどういうこと。

木凪 単純な話、こういう家まがいな物は行政の奴らには邪魔だと思われてる。

枯井 それじゃよくわかんないよ!なんで迷惑なんかかけてないのに壊されなくちゃいけないの!  

木凪 こういうものがあるから、ホームレスが生まれるんだとかなんだとかケチが付くからだろ。

枯井 だからなんで、なんでさ!そりゃ確かにフジオさんに留守を頼んでたりしたけど、フジオさんが悪いことしたわけじゃないなじゃん。

木凪 そうだよ……フジオさんは悪くないし、他のホームレスの人たちだって、ほとんどいい人たちだよ。

    でも、お前だって分かってるだろ行政が考えそうなことなんて、ああいうのは金食い虫って言って金儲けることしか頭に無いんだよ。

枯井 そんな切って捨てるみたいな言い方しないでよ

 

 

藤井が戻ってくる

 

 

藤井 ふぃ……おや、嬢ちゃんに青年、どうしたのかの?

木凪 フジオさん!

枯井 大変なんだって、ここ壊されちゃうよ!

藤井 ……嬢ちゃん落ち着きなさい、しかしそりゃ、またなんでかの。

木凪 今日、行政の方でホームレスの強制撤退作業を強行するって

藤井 それはまた急な話じゃの……。

木凪 それでフジオさん……。

藤井 わかっとるよ、ここから出てけばいいんじゃな

枯井 え!?何言ってんの二人とも。

木凪 わかんないのかよ、フジオさんが出てってくれれば、ここはまだ壊されない可能性があるんだよ

枯井 そんな……。

藤井 まあ、出てくとはいっても2,3日。強制撤去作業が落ち着いたらひょっこりもどってくるがの

枯井 お、驚かせないでよ。

木凪 それでもまあ、五分五分ってところだけどな……。って、しっ。静かに。

 

 

サイレンの音。

赤いパトランプが通り過ぎる。

 

 

枯井 や、やばいんじゃないの?

木凪 かもしれないな……フジオさん。

藤井 ふむ……いそいで出てくとするかの

 

 

藤井さんが出て行こうとする。

しかし、浅辺が突入してくる。

 

 

浅辺 一に前進!二に出世ーー!さあ、私の出世のためにとっととここから出ていきなさい、そこホームレス!

 

 

後ろからへばりながら吉崎が入ってくる。

 

 

吉崎 ま、まってください~。小梅先輩ー

浅辺 私を小梅と呼ぶなぁーー!

吉崎 し、失礼しました。小梅先輩!

浅辺 おまえわざとだろ、わざとやってるだろ!

木凪 な、なんだこのハイテンションな奴らは

浅辺 あらー、最近のホームレスはこんな子供までいるのね、まさに家無き子ってやつ?

枯井 失礼ね!あんた達いったいなんなのよ

浅辺 フッ、何を隠そう豪腕お姉さんことホームレス強制退去Bチーム班長浅辺小梅とは私のことよ。

吉崎 いや、そこまで聞かれて無いっすよ……。

浅辺 なにいってんのよ、こういうのは見かけのインパクトが命、ハッタリ上等ってやつよ!

藤井 聞かれちゃおしまいじゃがの

浅辺 う、うるさい、黙れホームレス!

木凪 どうやら、考えうる最悪の事態って奴だな。

枯井 そんな冷静になってどうするのよ!ピンチだよ私達ピンチだって!

浅辺 あらー、私達はホームレスの貴方達に家を提供しようとしてるだけよ

藤井 その紹介したアパートや家の家賃はいったい誰の懐に納まるのかの

吉崎 う、痛いところついてきますよ、先輩

浅辺 んなこといちいち気にしてたら公務なんてできっこないのよ、それとも何ここで一戦やり合おうっての、いいわよ1対3ぐらいどってことないしね

吉崎 ぼ、僕は戦力外ですか!?

浅辺 あんた入れると、逆に戦力落ちるのよ。

吉崎 そんなー

枯井 や、やるってんだったら、やっていいのね!

木凪 バカ!そんな挑発ですらない挑発に乗るなって

枯井 止めないでよ、こいつら追っ払わないとここが壊されちゃうんだよ!

木凪 分かってる。でももう少し考えろ!

枯井 で、でも……ううう。

 

 

両者がにらみあう。

 

 

藤井 ……仕方ないの、立ち退きを受けよう。

枯井 フジオさん、なんで!?

木凪 フジオさん……。

浅辺 あらー、思ったより飲み込みがいいことで。吉崎、解体屋に連絡してきて

吉崎 はい、先輩。

 

 

吉崎が出て行く。

 

 

藤井 しかしの、こちらとて少々条件があるのじゃが

浅辺 なに、聞ける範囲だったら聞いてあげてよ。

藤井 簡単なことじゃよ、立ち退くためにはもう少し時間が必要なのじゃ

    それに、ここにはまだ使ってる物がおおい……いささか時間をくれんかの

浅辺 ……こんなガラクタなにに使うってのよ。

藤井 お主の地位のようなものじゃよ、あってなにに使うというのかの

浅辺 う、うるさい!いいわよ、それで出て行くってんだったら条件飲もうじゃないっての

藤井 ふむ、商談成立じゃの。

 

 

吉崎が戻ってくる

 

 

吉崎 小梅先ぱ――

浅辺 私を小梅と呼ぶなぁ!

吉崎 ひぃっ!?

浅辺 まったく、物覚えの悪い部下だっての……吉崎、解体屋へもう一度連絡して、解体するのは2日後だって。

吉崎 へ? でも早急にやるべきことじゃ―――――。

浅辺 いいのっ!私は地位や名誉なんて追い求めるがめつい女じゃないからね。

吉崎 それじゃ、最初のきめ台詞の意味が無くなっちゃいますよ……

浅辺 ほー、吉崎、先輩に向かって進言とは良い度胸ね、遺言ある?

吉崎 は、はいぃ!? いいえー!? 分かりました!直ぐに、今すぐにかけなおします。

 

 

吉崎再び出て行く

 

 

浅辺 まったく、アイツ妙なとこで律儀ね。そんじゃわかってるでしょうけど執行猶予はあと二日。

    それまでせいぜい荷作りに励みなさい、それじゃあねー

 

 

そういって浅辺が出て行く。

 

 

枯井 芳也、砂糖。

木凪 塩だろ

枯井 ああ、もうどっちでもいいから貸して。

木凪 アリが湧くから貸すわけ無いだろ、機材がこわれたらどうしてくれる

枯井 貸・し・て

木凪 あとで一粒残らず掃除してくれるならな。

枯井 う、それは流石に……でも、ねえ、どうすればいいのさ

木凪 (考える間)……わかんねぇ、フジオさんはどう思う。

藤井 出て行くしかないじゃろ……とくに嬢ちゃんには辛いかもしれんがここは壊されるかもしれん。

枯井 そんな、何とかならないの!

藤井 ふぅむ……。

枯井 フジオさん!

木凪 灯子落ち着けって、フジオさんを困らせても仕方ないだろ。

枯井 う、・・・・・でも芳也! ここ壊されちゃうんだよ、もうジャンクロール流せなくなっちゃうんだよ!

木凪 ごめん、灯子。俺もフジオさんが正しいと思う……。ジャンクロールは……もう、ここが潮時――。

枯井 馬鹿! そんなこと無い!

木凪 現にこんな状態ないか、これのどこが大丈夫なんだ!

枯井 それでも、それでもさ! 何か方法があるんじゃないの!

木凪 あったら……とうの昔に言ってる……。

枯井 私は……

木凪 灯子?

枯井 私は諦めないから!

 

 

枯井が飛び出していく

 

 

木凪 灯子!あの馬鹿が

藤井 嬢ちゃんはやっぱりこうなったかの

木凪 フジオさん、こうなること分かってて黙ってただろ

藤井 フェフェフェ……なぁに、先のことなんて分かるわけなかろうて

木凪 ……はぁ。

藤井 青年は嬢ちゃんを追わなくていいのかの

木凪 そんな青春やってる年じゃねぇって

藤井 そんなもんかのまだ・・・・・17、18じゃろ?

木凪 17、高三だから今年で卒業

藤井 まだ青春やっていい年だと思うが……、どうじゃ、嬢ちゃんを追わないなら、一緒に茶でも飲むかの?

木凪 フジオさん……だな、一杯貰ってくよ

藤井 なんじゃ、その言い草は。酒でもおごらないかんそうだの。

木凪 いや、フジオさん貧乏なの知ってるから

藤井 それじゃ席にでも座りなさいな、酒は無理じゃが茶菓子ぐらいなら、あったはずじゃし、

木凪(座りながら)……それ腐ってるんじゃないの?

藤井 食べてみてからのお楽しみじゃ

木凪 い、いや、ヒット率99%のロシアンルーレットみたいで怖いんだけど

藤井 フェッフェッフェ

 

 

藤井がテーブルに茶と茶菓子を置く

木凪は茶には口をつけるが茶菓子は食べようとしない

その間に藤井もテーブルにつく

 

 

藤井 しかし、困ったことになったの

木凪 本当……なにやったわけじゃないんだけどな、あ、いや、電波ジャックはやったか

藤井 別にそれは問題なかろうて無線はプロアマ問わず共通のものじゃよ

木凪 それもそっか

藤井 んで、結局どうしたいんじゃ?

木凪 どうしたいって……そりゃ荷物まとめてづらかるしかないんじゃないか?

藤井 おぬしは本当に斜めってるの

木凪 フジオさんにだけは言われたくないっての。

藤井 フェッフェッフェ、先に言っておくが今ある二つの問題は両方とも重たいぞ。

木凪 2つって……フジオさん、なんか勘違いしてない?

藤井 さての……わしゃ年寄りじゃから耳が遠いのだよ

木凪 うそつけ、30代の顔した、年寄りがいてたまるか

藤井 さてね、居てもいいとわしは思うが。

木凪 はぁ……とにかく、アイツと俺はそういうんじゃなくてただの腐れ縁だから

藤井 ただの腐れ縁が一緒にラジオやって、ボケツッコミやってるのはなかなか珍しいと思うがの

木凪 ……はぁー、フジオさん勘弁してくれよ。なんであんな暴走シベリア超特急みたいな怪力と俺をくっつけたがるかな

藤井 別に誰とは言ってないがの

木凪 そこまでいってそれはないだろ!誘導尋問にすらなってないっての!

藤井 いいツッコミだ青年よ、嬢ちゃんの言う通り、5年後にはマスターになってるかもな

木凪 フジオさんがいうと、なんか本当のことになりそうだからいやだよ……。

藤井 フェッフェッフェ、期待しとるよ

木凪 ……しないでくれよ

藤井 いいとおもうのじゃがの……、まあ、いいわい。

木凪 どこが、いいんだか

藤井 それで、もう一度きくがの、どうしたいんじゃ

木凪 ……俺に、分かるわけないじゃんかよ

藤井 自分を狭めちゃいかんよ、お前さんはそれを信じようとしないだけで分かってるはずじゃって。

木凪 フジオさん……でもそれが正しい答えかどうかわからないじゃないか

藤井 サイを投げるにはまず行動じゃよ

木凪 ……

藤井 その目がなんとでるであっても、0よりかはマシじゃろうて

木凪 そう、かもしんないけど……。

藤井 ジャンクにはの、ジャンクなりに役割があるんじゃ

木凪 ……なんの話?

藤井 さてね……。ただ、ジャンクになってしまっては、もうジャンクとしての役割しか果たせないのじゃよ

木凪 ジャンクの役割しか……?

藤井 そうじゃ、後続となる物をより良いものにする、そんな役割じゃ。

    お前さんはまだ、ジャンクになるには早すぎるじゃろ?

木凪 ……フジオさん、は?

藤井 わしゃ、もうジャンクじゃよ、あとは伝えるだけの存在じゃて

木凪 ちょっとまってくれよ、俺よりラジオ放送の知識があって、それでミキサー卓やマイクの使い方だってしっかり分かってるじゃないか

    それなのになんで、ジャンクなんていうんだよ!

藤井 ……昔、仕事でちょっとの、大きく躓いてしまったんじゃよ。

木凪 ……だから、ジャンクだって?

藤井 フェッフェッフェ、そうかも知れないし、そうじゃないかもしれないの。

木凪 そういうところでいつもはぐらかすよな、フジオさん

藤井 なぁに、兵法しかり逃げるが勝ちって奴じゃよ

木凪 嘘つけ……逃げて勝ちがつかめるものかよ

藤井 まあ、一個人的に考えるとそうじゃの、逃げる時を間違えちゃいかんよ、変な方向に転がってしまうからの

木凪 そんなもんかな……

藤井 そんなもんじゃよ

木凪 そっか

藤井 ふむ、どうするか、決まったかの

木凪 ……まだ迷ってるけど、一応

藤井 見えたのならそれでいいのじゃよ、若いときは自分こそ信じなければならいもんじゃからの

木凪 おっさんくさいぞ、フジオさん

藤井 おっさんじゃからの

木凪 たはは、そういわれりゃ、そっか

藤井 そうそう、ほれ、今日はもう遅いからの、家に帰るなり何なりしなさい

木凪 だな、そんじゃフジオさん、また明日

藤井 フェフェフェ、互いに無事じゃといいがの

木凪 まったくだ……じゃな

 

 

木凪が出て行く。

藤井が茶をすすり、茶菓子を手に取る

 

 

藤井 む……やはりかびてたか。

    ジャンクってのはそう、後継機をよりよい物としてつなげるためにある、そういう存在

    このミキサー卓や、マイク……お前らの後継機もしっかり現場で活躍してるらしいし、いいことじゃないか。

    そしてラジオ「ジャンクロール!」の後継も……。

    とりあえず、寝ようかね

 

 

フジオさんがゴミ山から毛布を引っ張り出してそれに包まる。

 

 

暗溶

 

 

翌朝

小屋に日の光が差し込む。

そして、藤井が目をさます。

 

 

藤井 んー、もう朝か……、とりあえずお茶でも飲むかな……

 

 

枯井が入ってくる

紙の束と定規の入った紙袋を手にしている

 

 

枯井 フジオさんおっはよー!

藤井 おお、嬢ちゃんじゃないかの、こんな朝っぱらからどうしたんじゃ?

枯井 フフフ、我手中に秘策アリってやつ?

藤井 その紙と定規がかの?

枯井 そうそう、ちょっと机借りるね、学校とか家だと落ち着かないからさ

 

 

そういって枯井は机を占領する

 

 

枯井 あ、書くもの忘れた……フジオさん、なんか書くものない?

藤井 ほむ……たしかここら辺を漁れば出てくると(近くのゴミ山を漁って)ああ、あったあった、こいつで大丈夫かの

 

 

藤井は見つけたボールペンを枯井に渡す

 

 

枯井 ありがと、フジオさん

藤井 して……嬢ちゃんは何をするつもりじゃ?

枯井 フフフ、秘密

藤井 ふぅむ、紙と定規とペンでの……なんとなく、読めなくもないがの

枯井 う……やっぱり分かっちゃう?

藤井 最近はパソコンとかがあるんじゃから、そっちでやればいいじゃろうとは思うが……あぁ、嬢ちゃんパソコン苦手なんじゃったな

枯井 グサっ……普通パソコンなんて器用に扱ってるほうがおかしいんだって

藤井 そうなのかも知れんが、便利なのもまた事実じゃよ

枯井 そうなんだけどねぇ……やっぱ苦手なんだよねー、なんか頼ってるみたいでさ

藤井 そういう考え方も確かにあるの

枯井 ん だったらフジオさんはどう思うのさ

藤井 そうじゃの……便利だから使う、かの?

枯井 なにそれ

藤井 そのまんまじゃよ、便利だから使う、便利じゃなければつかわない、それだけじゃよ

枯井 なんか、切ったような言い方ね

藤井 そうじゃの。嬢ちゃんはそういう考え方が嫌いだったんじゃったけかの

枯井 そうそう、嫌いも嫌いド嫌いよ。例えばさ、このボールペン……もともとジャンクで落ちてたけど、まだ使えるじゃない。

    それなのにちょっとインクが出なくなったからって捨てるなんて、もったいないじゃない

藤井 じゃのう、しかしそれだけじゃなさそうな気がするがの。

枯井 うーん、あとは反面教師ってやつかな

藤井 反面教師のぅ、誰が教師なのかは聞かないでおこうかの

枯井 そうしておいて、なんだかんだで腐れ縁だからねーそういうところ影響くらっちゃったのかなぁと思うと悲しくなるのよ

藤井 そうかの?

枯井 そうなの

藤井 ふむ、それじゃそろそろ朝のゴミ拾いにいってくるよ

枯井 フジオさん朝もゴミ拾ってたんだ

藤井 フェフェフェ、ゴミ拾いも縄張りがあるからの、朝から朝とてとっとと動くのがいいんじゃよ

枯井 あ、ごめんねフジオさん、時間取らせちゃったみたいで

藤井 なぁに、ゲンさんがいつもの場所にくるまでまだ20分はあるんじゃし、気にすることないよ

枯井 あ、そうなんだ

藤井 フェフェフェ、それじゃ行ってくるの、お茶は適当に探せば見つかるから、適当に飲んじゃっておいておくれ

枯井 分かった、いってらっしゃいフジオさん

 

 

藤井退場する

 

 

枯井 さってと、ちゃっちゃと作っちゃおうと

 

 

枯井が作業を始める

紙に定規を当てて、表のような物を作っていく

しばらくして枯井は一旦作業を止めてる

 

 

枯井 んー、なんか音楽ながそう

 

 

そうして適当にCDの束がおいてあるところであれやこれや探し始める

 

 

枯井 うーん、クイーンでも、聞こうかね……ドンドンチャドンドンチャってやつ。

 

 

枯井がCDを見つけあれこれ、操作する。

そして、QUEENの[WE WILL ROCK YOU]が流れてくる

 

 

枯井 おーーー! よっしゃ、やるぞ!

 

 

枯井が再び紙に向かう。

そして表を書いていく。

 

 

しかし、しばらくすると途中で音楽が止まってしまう

 

 

枯井 あ……

 

 

機械のところまでいってもう一度操作してみるが、結局動かない。

 

 

枯井 どうしよう……。さ、流石に、分解するわけにはいかないし……。

    ええい、これぐらいでへこたれるか!

 

 

そんなところに木凪が入ってくる

 

 

木凪 なにに、へこたれないんだって?

枯井 うわっ!?なんで芳也がいるのさ、学校は

木凪 ふけてきた

枯井 ふけてきたって、あんた……、そんなことして大丈夫の

木凪 ……はぁ、大丈夫な訳ないだろ

枯井 だったら、早くもどりなって

木凪 もう遅いって、時間見てみ、ちょうど2時間目の授業

枯井 あ……ほんとだ。

木凪 今からじゃ、間に合わないだろ

枯井 た、確かに……。

木凪 それで、何が「へこたれるか!」なんだ?

枯井 そうそう! 聞いて芳也、署名を集めるのよ!

木凪 ……署名?

枯井 そう、署名!集めるだけ集めて県とか町とかに送るの

木凪 あー、公民でならったな、そんなこと。三分の一あつまったら再協議だっけ?

枯井 そう、それ。もしそれだけ集められなくても、ある程度の数がそろえてあいつらに送りつければ、それなりにいけると思うの

木凪 お前にしては良く考えたな

枯井 ……馬鹿にしてる?

木凪 まさか

枯井 め、珍しいね、普通に誉めるなんて

木凪 そんな日があったっていいだろ

枯井 なんか、釈然としない……あ、そうそう、芳也。

木凪 どうした?

枯井 ラジカセ勝手に止まっちゃったんだけど、原因わかる?

木凪 ん、ちょっと見てみる

 

 

木凪、ラジカセを弄くってみる

 

 

木凪 はー、とりわけなんかぶっ飛んだ感じはしないってことは……。

枯井 治るの?

木凪 お前さ……いや、いいや

枯井 言いかけてなにさ。

木凪 あー、うん、な。

枯井 なに?

木凪 電気充電してから使え、馬鹿

枯井 え・・・・・ああ!

木凪 ……。とりあえず、こいどく

枯井 すまぬヨッシー

木凪 だから、俺はどこの怪獣じゃ!

枯井 いいからよろしく

木凪 調子良いな、まったく……。

 

 

木凪自転車をこぎ始める

 

 

枯井 でも、いっつも思うけどなんでそのペダルってそんなに重いの?

木凪 これ一つでこの小屋の電気作ってるんだ、無茶苦茶な配列もたたって、相当重くなっちまったんだよな

枯井 もう少し軽ければ私でもこげるのに

木凪 基本的な体重の差だっての、灯子が重くなればいけると思うぞ

枯井 うわ、こいつ人が体重を維持するのにどれだけ苦労してるとおもってるのさ

木凪 知らん、知る気も無い

枯井 甲斐性というか、もう少し思いやりを学びなさいよ、あんたは。

木凪 ……どうだろうな。と

 

 

木凪自転車こぎ終わる

 

 

木凪 灯子ラジカセのスイッチ入れてみろよ

枯井 了解っと

 

 

枯井ラジカセのスイッチを入れる

すると、再びQUEENの[WE WILL ROCK YOU]が流れ出す

 

 

枯井 おー、サンキュ-ヨッシー

木凪 お、おまえ、なんでQUEENなんだよ……しかもよりによってWE WILL ROCK YOU

枯井 フフフ、闘志を奮い立たせてくれる名曲じゃない

木凪 奮い立つのかよ、こんなんきいてるから怪力になるんだ

枯井 なにさ、QUEENカッコいいじゃない

 

 

枯井はそういいながら、作業に戻ってる

 

 

木凪 かっこいいのは認けど……って、お前なにやり始めてるんだよ

枯井 署名の準備

木凪 ま、まさか何千枚の署名用の紙、全部手作りで作るきか

枯井 うん

木凪 アホか! パソコン使えよ、ってああ、お前エクセルすら無理だっけ

枯井 うっ、効いたわ今の一言

木凪 はぁ、いっぺん家に帰って署名の用紙ぐらい作ってきてやるよ

枯井 ちょっと待って、やっぱこういうのは手書きの方がいいとおもうの

木凪 ……お前なぁ

枯井 だって、そっちのほうが必死なことつたわりそうだじゃん!

木凪 はぁ、そうだなぁ

 

 

そういって枯井の反対側にすわる。

 

 

枯井 え

木凪 手伝ってやるよホレ紙かせ

枯井 あ、うん。

 

 

そして二人は署名用の紙を作っていく

ある程度進めるが枯井が木凪が気になるのかいまいち作業が進められない

一旦作業の手を止める枯井。

 

 

枯井 あのさ……なんか機嫌悪くない?

木凪 ん、そうみえるか?

枯井 なんつうか、うん、静かにふつふつしてる感じ?

木凪 そうか?

枯井 うん、なんかすっごくそんな感じがする

木凪 ……いや、なんていうか、さ。

枯井 うん

木凪 昨日は悪かった、ジャンクロールはもう終わりなんて言っちまって。

枯井 なんだ、そんなことでぴりぴりしてたの

木凪 そんなことってな! これでもすっげぇ労力をだな――――

枯井 はいはい、謝罪はもういいって、言い訳するとかっこ悪いよ

木凪 ……

枯井 でしょ?

木凪 だな……。

枯井 そうそう、こうして手段が見つかったんだし、ぱっぱと手を動かして行こうか

木凪 といいつつ、お前の方が作業遅れてないか?

枯井 グッ、あんた、人が水に流してあげた瞬間手を返すようにツッコミしてきたわね

木凪 ……ほとんど条件反射だっての

枯井 あ、それとさ、実はもう一つ方法考えたんだけど……

木凪 ん?

 

 

枯井木凪にこっそりと、それを教える

 

 

木凪 おまえ、マジで今日どうした

枯井 さえてるでしょ

木凪 ちょっとだけ、脱帽

枯井 フフフ、でもとりあえずは先にこっちを片付けないとね。

木凪 だな、ちゃっちゃとすませてしまおうぜ。

 

 

再び作業にかかる二人

 

 

暗転

 

 

とある公園。

浅辺が一人、誰かを待っているように座っている

傍らにはラジオ、ノイズが聞こえている。

 

 

浅辺 むぅ、今日はちょっと遅いのね……つうか、あの馬鹿は遅すぎ、なにしてんのよ

 

 

浅辺いらいらしながらラジオを弄くっている

そこに吉崎が走ってくる、手にはビニール袋

 

 

吉崎 すみません、シグマリオンのアンパン確保してきました

浅辺 おっそい!

吉崎 す、すす、すみません、小梅先輩

浅辺 ぶっころされてぇかてめぇ!

吉崎 ヒエー、す、すみません

浅辺 しまいにゃ、拳銃抜くわよ……!

吉崎 ぼ、僕を殺す気ですか!?

浅辺 うーん、そうね、殺人した罪がもっと軽くなるなら考えても良いかも

吉崎 け、刑法改正されないで欲しいです。

浅辺 早く改正されてほしいわー

吉崎 酷いっすよ!

浅辺 そういわれたくないなら、もっとしゃきっとしなさいって、だいたい昼ゴハンかってくるのに何時間かかってるのよ

吉崎 うう、すみません、小梅先輩

浅辺 ガチーン、今日という今日は許さないわよ、吉崎ィーーー!

吉崎 ひぃ!?

 

 

浅辺が吉崎追い、吉崎が浅辺から逃げ回る

そんなやり取りをしばらく行っていると、突然ラジオ放送がなれてくる

ラジオ「ジャンクロール」だ

 

 

※ラジオの内容

枯井 ども、こんにちわ、聞いてる人も聞いてない人もそれでいてみんなありがとう!

木凪 「ジャンクロール!」今日はちょっと趣向を変えてお送りしていくぜ!

枯井 パーソナリティはこの私「イコ」と

木凪 「ナギヨシ」でお送りいたします。

枯井 というわけで、ナギヨシ、ジャンクロールはいま署名活動を行っています。

木凪 署名活動……いったいまたなんで?

枯井 なんと……このままだと我発信所は潰されてしまうからです!

木凪 まじでか、どうしてそんなことに?

枯井 それは―――――――――。

 

 

浅辺にラジオが切られる

 

 

吉崎 あれ、どうしたんですか、ラジオ切っちゃって、先輩の好きな番組じゃないですか

浅辺 ……吉崎、この仕事やっててさ、辛いと思った時ってある?

吉崎 一杯ありますよ、先輩に怒られたり、先輩に怒られたり

浅辺 私はね、奪ったり、壊したりするのて、嫌いなのよね

吉崎 はぁ

浅辺 だから、こういうときって一番嫌いなのよ

吉崎 でも、先輩、いったいどうしたんですか?

浅辺 馬鹿者、今の放送聞いて気がつかなかったの! いま放送していたのは昨日あったガキどもよ

吉崎 え、ええ!?

浅辺 昨日あったときにどっかで聞いたことある声だと思ってたら……そういうことだったのね

吉崎 よく分かりましたね、僕なんてさっぱり

浅辺 署名活動とか、発信所がつぶされるとか聞けば普通嫌でも分かるわよ

吉崎 は、はぁ

浅辺 ほんと……難儀よね……。まさかひいきにしてた番組つぶすなんてね

吉崎 でも、先輩、そんなに嫌だったら、見逃せばいいんじゃないですか?

    本部からはある程度の収集がついたらそれでいいと―――――

浅辺 馬鹿者! 本部の目がどうこうじゃないのよこういうのは。

    いい、私たちみたいな大人は奪うこと叱るしか出来ない、だからガキどもが抱いてる、ろくでもないもんを奪って正しい道にふませなくちゃいけないのよ

吉崎 まるで、略奪者ですね

浅辺 それ以外のなんだっていうのよ。

    悪い奴なんてのはね、大抵正義にいるもんなのよ。ここに入ってよくわかったわよ

吉崎 じゃあ、先輩。先輩はなんで、いまもここにいるんですか……?

浅辺 憧れや、夢にしがみついていたいわけじゃないんだけどね、しいて言うなら悪い奴になるため……ね

吉崎 悪い奴にですか

浅辺 そう、憎まれ役ってやつよ、いろんな奴に憎まれても、一人でも多くまっとうな道につかせてやりたいからね

吉崎 先輩

浅辺 柄にも無く、すこしシリアスだったわね

吉崎 そんなことありません、感動しました、小梅先輩!

浅辺 よ・し・ざ・き

吉崎 どうしました、小梅先輩

浅辺 キィーッ。馬鹿者ッ!

 

 

浅辺おもいっきり吉崎をなぐる

 

 

浅辺 私をその名で呼ぶなと何度いったら分かる!

吉崎 す、すみません……

浅辺 とにかく行くわよ

吉崎 どこにです?

浅辺 昨日いったあのおんぼろハウスよ

吉崎 まさか、署名活動の邪魔を

浅辺 そんな幼稚なことはしないわよ

吉崎 じゃあ

浅辺 ちょっと見てくるだけよ、ついでに憎まれてくるだけ

 

 

浅辺が出て行く

 

 

吉崎 ……でも、こんなマイナーで個人の番組だし、署名なんて集まらないとおもうんだけどな

    って、ああ、待ってくださいよ小梅先輩

 

    (遠いところで)って、ちょっと、なぐらないで……ぎゃあああ!

 

 

暗転

 

 

暗がりから二人の声

 

 

二人 それではまた明日!

枯井 ジャンクロールは

木凪 これからも続く!

二人 絶対に!

 

 

明りがはいる。

発信所にて二人マイクの前に座っている。

 

 

枯井 よし! やったね

木凪 だな

枯井 フフフ、あとは署名を集めにいくだけね

木凪 だったら、とっとといこうぜ

枯井 そだね、よっしゃ、やるよ!

 

 

二人は別の机に置いてある紙の束を集めて準備をする。

そして、準備をまとめると発信所から出ていこうする

がしかし、出て行ったところで、戻ってくる。

それと同じに浅辺と吉崎が入ってくる

 

 

浅辺 私、登・場! どう、署名活動ははかどってるかしら?

枯井 な、なんでアンタたちがここにくるの、期限は明日じゃない!

浅辺 確かに壊す云々は明日よ、でもね別に様子を見にこないとはいってないわね

枯井 ぐっ……そんなうまいこといったって山田さんは座布団もってきてくれないわよ

木凪 誰だよ、山田さんって!

枯井 (木凪に)ガンバ!

木凪 お前の座布団引き抜いてやろうか

枯井 ……う。

木凪 それで、灯子の台詞を繰り返すきじゃないが、何しにきたんだ?

吉崎 そうですよ、小梅先輩、何しにきたんですか

浅辺 吉崎

吉崎 なんですか? 小梅……あ”。

浅辺 私をその名で呼ぶなぁっつっとんだろーー!

 

 

吉崎が浅辺に追っかけられるようにして退場

やや、あって浅辺だけがもどってくる

 

 

浅辺 ごめんなさいね、うちの部下がちゃちゃいれちゃって

木凪 どちらかというと、話をめんどくさくしてるのはあんたじゃないか

浅辺 何

木凪 ……いや、なんでも。それで、何しに来たんだよ

浅辺 なに、ちょっとだけ忠告しておこうとおもってね

枯井 なによ

木凪 ……いいたいことは分かってるつもりだ

浅辺 あら、そう?

枯井 ちょ、ちょっとなんのこと

木凪 気にすんな。あ、灯子ちょっと先行っててくれないか、こいつに少し話があるんだ

枯井 ……私もいる

木凪 はぁ、好きにしろ

浅辺 それで家無き子男子は分かってるみたいだけど、女子にも説明しとく?

木凪 いや、しないで置いてくれ

浅辺 優しーわねぇ

枯井 ちょっと二人の世界で話さないでよ!私にも分かるように話してってば

木凪 ともかくだ、俺達はあんたみたいな大人じゃないから、これぐらいしか対抗手段がないんだよ

浅辺 勝率なんて無いようなもんじゃない

枯井 もうなんなのさ!

木凪 はぁ、分かったよ。人口三万九千

枯井 へ?

木凪 これがこの町のおおざっぱな総人口だ

枯井 え、あ……えっと、ごめん芳也、意味がわかんない

木凪 つまりな、三分の一の署名ってのは一万三千人分の署名を集めなくちゃいけないんだよ

枯井 そ、そんなもの……やってみなくちゃ

浅辺 分かってるの、お嬢ちゃん。期限は明日、今から一分に一人署名を書き込んだとしても千四百四十人、一万三千人の署名を集めるのには大体一分に九人は署名を書いてもらわないとね

枯井 い、一分に九人

浅辺 ちなみに参考までにコンビニでの客の処理数ってのはね、高くても一時間に70人ぐらいなのよ

枯井 そんな、でも芳也は「よく考えたな」って

木凪 ……あいつのいうことじゃないがな、俺もこの方法には無理があるとおもってた。

枯井 芳也!?

木凪 でもな、ほかに方法はないし、それに

枯井 それになんなのよ!

木凪 俺達のラジオがどれだけ認知されてるのか、分かるだろ?

枯井 ……馬鹿。

浅辺 ラブッてるわねぇ、見ててこっちが恥ずかしいわよ

二人 誰が!

浅辺 おーぅ、おぅ、お約束もばっちりじゃないそれじゃ、私は行くわっとその前に……。

 

 

浅辺枯井から署名用紙をぶんどる

 

 

枯井 あ、ちょっとなにすんのよ

浅辺 なにって、署名よ、署名

枯井 へ?

浅辺 いちリスナーとして、ほいほいっと……まあ、あとは頑張りなさい

 

 

そして、浅辺が署名用紙を返し、退場する

 

 

枯井 なによ、最後だけいい人ぶりやがって……。

木凪 いいじゃんか、俺達の放送ちゃんときいてくれた人がいたってことで

枯井 それは、そう、だけど

木凪 それに、お前は勘違いしてるぞ

枯井 へ?

木凪 「今」の俺達にはこうするしかないんだ

枯井 今って……

木凪 俺達には次がある。小屋がぶっ壊されったって、ラジオ「ジャンクロール」は続けられる

枯井 どうやってさ

木凪 お前は馬鹿か

枯井 芳也にいわれたくないよ

木凪 はぁ、もう、いい、とにかくそれじゃ、抵抗するだけしに行こうぜ。

枯井 って、ちょっとまってよ。

 

 

二人して署名用紙を手に出て行く。

 

 

暗溶

 

 

SE:大きな建築物が壊される音

 

 

舞台に明りがつく。

相変わらずの小屋、そこで藤井が茶をすすっている。

ただし、身なりは綺麗で、ニットキャップは被っていない

 

 

藤井 ふぅむ、時間とは早いもんだな、さてと

 

 

藤井がラジオを机に持ってくる

そして、二三、番組を合わせようと、チューニングする。

そこに浅辺が入ってくる

 

 

浅辺 こらぁ! そこのホームレス、とっとと出て行きやがれーー!!

 

 

吉崎もおくれて入ってくる

 

 

吉崎 せ、先輩! せっかく警部になったんだから、こんなことしなくてもいいんですよ!

藤井 おや、いつぞやの刑事さんか

浅辺 ん……あんた、どっかで

藤井 フェッフェッフェ、こういったほうがええかの?

吉崎 あーーー! この人、三年前の撤去の時にゴタゴタやったホームレスですよ

浅辺 ああ、あのときの。あんたまだホームレスやってんの

藤井 さてね。それでなんのようじゃの

吉崎 ホームレスの方なら、はやく撤退してください。この公園は町の管理下のものであって私物化していいものではありません。

藤井 ふぅむ、とはいわれてもの

 

 

そういいながら、チューニングを弄る藤井

 

 

浅辺 ……なにやってんのあんた

藤井 三年前、署名活動は100人集まったか集まらなかった程度だったそうじゃの

吉崎 はい、一応、署のほうに提出されはしましたが、規定人数に達してなかったので返却されました

藤井 そうじゃろうな、そして、この建物は一度壊され、嬢ちゃんと青年はの専門学校へいったそうな

浅辺 それで、どうしたの

藤井 三年じゃ、専門学校を卒業し、一年の下済み。そして彼らはの

 

 

そういいながらチューニングを弄る藤井

なにやら、聞いたことある音楽が流れはじめている

ラジオ「ジャンクロール」のオープニングだ

 

 

枯井 ども、こんにちわ、聞いてる人も聞いてない人もそれでいてみんなありがとう!

木凪 「ジャンクロール!」今日はきっかり一時間、楽しい話で盛り上がってこう!

枯井 パーソナリティはこの私「イコ」と

木凪 「ナギヨシ」でお送りいたしましたー。

枯井 まだ、終わってないよ!

木凪 おー、そうだった、そうだった。それで今日のお手紙は?

枯井 はい、これ。

木凪 おお、こいつは凄い、なーんもきてない。

枯井 あははは、だって初放送だもんね、それじゃいつものように好き勝手流してこう!

木凪 おう!

 

 

ややあってBGMが変わる。

 

 

幕。